岩手県立美術館

vol.47 それはどうやって掛かっているのか

主任専門学芸員 根本亮子 
2014.05 

みなさんは展示されている絵画を見て、「この作品の額はどうやって壁に掛かっているんだろう?」と思われたことはあるでしょうか。美術業界の人を除けば、「気にしたこともない」という方がほとんどではないかと思いますし、私としても、額の掛け方よりは中身の作品に注目いただきたいのが偽りない気持ちです。
ただ、展示をする立場になると、展示の見栄えと安全性(落下や盗難などがないようにすること)に係わるこの問題は大変重要です。私自身が額の掛け方に興味を持った最初のきっかけは、「額のお辞儀問題」でした。〔註:額のお辞儀問題。それは額の裏面の吊り紐をフックに掛けて展示すると、額が前方に少し傾く現象のことである。ただしこれを問題とみなすかどうかには個人差がある。〕いつの頃からか、額の上部と壁の間に生じる微妙な隙間が気になり始めた私は、水彩や素描などを入れるシンプルな額だけでも、ぴたっとまっすぐ壁にくっつけたいと考えるようになり、その願望は日に日に強くなりました。その方が絶対美しい展示になると思ったからです。
どうすれば実現できるのか、当初はやり方が全くわかりませんでしたが、企画展の展示・撤収作業時に他館からお借りした作品の額の裏面を観察したり、知り合いの学芸員さんや修復家さんに尋ねたりして秘かにリサーチを進め、昨年ついに願い叶って、前傾せずに壁にぴったりくっつく額を作っていただくことができました。初お披露目となったのは昨年の常設第2期展示です(画像上)。これは「ドッコ式」と呼ばれる額で、上部を斜めにカットした木製の部材を壁に打ち付け、額裏面の木枠をその部材に引掛ける仕組みです(画像下2点)。ちなみに、現在開催中の企画展「生誕100年!植田正治のつくりかた」の額も全てこのドッコ式の方法で展示されていますが、盗難防止のため、もうひと工夫手間をかけて壁に固定しています(セキュリティ上、具体的な方法は明かせません。ごめんなさい)。
ただ、このドッコ式の額、展示した時の見栄えは大変美しいのですが、壁に取り付ける木材を数本の太いビスでがっちりと固定しなければなりませんので、展示が終わった後で壁に大きなビス穴がいくつも残ってしまうという欠点があります。展示替えのたびに壁の穴埋めと塗り直しができればよいのですが、当館のような大きい展示室の場合は莫大な費用がかかるため、なかなか難しいのが実情です。美しい展示を目指した結果、壁が見苦しくなっていくというこのジレンマ。額の掛け方は未だ悩ましい問題です。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)