Vol.126 あこがれのムーア作品と対峙して
館長 長内努
2026.07
もうご覧になりましたか? 野外展示スペースの巨大なブロンズ彫刻を……。
20世紀イギリスを代表する彫刻家、ヘンリー・ムーアの《ふたつに分けられた横たわる像:カット》です。東京の伊藤忠商事株式会社の社屋新築に伴い、同社所蔵の本作を当館が長期にわたってお預かりし、公開しています。彫刻が専門の僕にとっては憧れのムーア、かつ彼の主要なテーマ「横たわる像」の代表作が今、目の前にあるのです。……「彫刻」と「僕」だけがこの「空間」と「時間」を共有している幸せは、なんとも言葉に言い表せない感情です。
僕が最初にムーアの作品と出会ったのは、彫刻を学び始めた45年ほど前のこと。「彫刻のための美術館」として1969年に開館した、箱根の彫刻の森美術館・屋外展示場でした。山々が連なる豊かな自然、どこまでも続く大空を背景にして、ムーアの「横たわる像」が風景の中心となっていました。それまで具象彫刻しか作ってこなかった僕は、人体を抽象化したその形態の強さや美しさに感動し、それ以降の僕の制作に大きな影響を受けたのでした。
当時は、今のようにインターネットが普及していなかったため、美術作品に触れるには展覧会に足を運ぶか、画集や展覧会図録で見るかしかありませんでした。なので僕は定期的に上京し展覧会をはしごして、神田の古書店で海外作家の作品集を探し、リュックに担いで持ち帰ったものでした。
時が流れ、今またこの作品と向き合うことができるようになって感じるのは、彫刻が置かれる環境や季節、時刻の違いにより、これほどまで印象や味わいが変わってしまうのだということ……。当然理解はしていましたが、その数倍も上をいく変化に正直驚いてしまうのです。
像を取り囲む美術館の建物や壁、床の整然と貼られた白御影石やタイルの中にあって、ムーアの有機的な曲線や、ふくよかな量感、形態の心地よいリズムがとても生き生きとした生命力を持って輝いて見えるのです。あの時箱根で見た、自然に溶け込みながらおおらかに佇んでいる作品とは異なり、環境や空間と良い緊張感を生み、響き合い、心なしか作品が大きくなったように思われてならないのです(僕が年齢とともに小さくなってきているせいでは無いと思う)。
このような感覚はインターネット上で観る画像や動画からでは到底感じられない、と僕は断言できます! ですからぜひ一度……いや、時期を変えながら何度でもみなさんの目と心で、見て感じていただきたいと願ってやみません。
また当館では、11月21日(土)-12月13日(日)に彫刻の森美術館所蔵作品を中心とした企画展「ヘンリー・ムーア展」も開催されます。どうぞご期待ください。
20世紀イギリスを代表する彫刻家、ヘンリー・ムーアの《ふたつに分けられた横たわる像:カット》です。東京の伊藤忠商事株式会社の社屋新築に伴い、同社所蔵の本作を当館が長期にわたってお預かりし、公開しています。彫刻が専門の僕にとっては憧れのムーア、かつ彼の主要なテーマ「横たわる像」の代表作が今、目の前にあるのです。……「彫刻」と「僕」だけがこの「空間」と「時間」を共有している幸せは、なんとも言葉に言い表せない感情です。
僕が最初にムーアの作品と出会ったのは、彫刻を学び始めた45年ほど前のこと。「彫刻のための美術館」として1969年に開館した、箱根の彫刻の森美術館・屋外展示場でした。山々が連なる豊かな自然、どこまでも続く大空を背景にして、ムーアの「横たわる像」が風景の中心となっていました。それまで具象彫刻しか作ってこなかった僕は、人体を抽象化したその形態の強さや美しさに感動し、それ以降の僕の制作に大きな影響を受けたのでした。
当時は、今のようにインターネットが普及していなかったため、美術作品に触れるには展覧会に足を運ぶか、画集や展覧会図録で見るかしかありませんでした。なので僕は定期的に上京し展覧会をはしごして、神田の古書店で海外作家の作品集を探し、リュックに担いで持ち帰ったものでした。
時が流れ、今またこの作品と向き合うことができるようになって感じるのは、彫刻が置かれる環境や季節、時刻の違いにより、これほどまで印象や味わいが変わってしまうのだということ……。当然理解はしていましたが、その数倍も上をいく変化に正直驚いてしまうのです。
像を取り囲む美術館の建物や壁、床の整然と貼られた白御影石やタイルの中にあって、ムーアの有機的な曲線や、ふくよかな量感、形態の心地よいリズムがとても生き生きとした生命力を持って輝いて見えるのです。あの時箱根で見た、自然に溶け込みながらおおらかに佇んでいる作品とは異なり、環境や空間と良い緊張感を生み、響き合い、心なしか作品が大きくなったように思われてならないのです(僕が年齢とともに小さくなってきているせいでは無いと思う)。
このような感覚はインターネット上で観る画像や動画からでは到底感じられない、と僕は断言できます! ですからぜひ一度……いや、時期を変えながら何度でもみなさんの目と心で、見て感じていただきたいと願ってやみません。
また当館では、11月21日(土)-12月13日(日)に彫刻の森美術館所蔵作品を中心とした企画展「ヘンリー・ムーア展」も開催されます。どうぞご期待ください。
ヘンリー・ムーア 《ふたつに分けられた横たわる像:カット》1982年、ブロンズ 伊藤忠商事株式会社蔵

