岩手県立美術館

Vol.123 新しい世界へ

主任専門学芸員 盛本直美

 2026.02

 現在開催中のコレクション展第4期では、一昨年、没後15年を迎えたグラフィックデザイナー、福田繁雄さんの特集展示を行っています。当館は、福田さんのポスター作品を400点所蔵しており、折に触れてコレクション展で紹介してきました。東京都出身で、国内にとどまらず世界で活躍した福田さん。なぜ当館がこんなに多くの作品を収蔵しているかというと、実は福田さんは、12歳から高校卒業までの時期を、母親の故郷である岩手県二戸市で過ごした県ゆかりのデザイナーなのです。そのご縁で、当館のロゴマークを手がけていただいたほか、2012年には、全国7会場を巡った展覧会「福田繁雄大回顧展」を開催、好評をいただきました。
 今回の特集展示では、前後期あわせて61点のポスター作品をご紹介しますが、グラフィックデザインの領域に「視覚トリック」を取り入れ、ユーモアあふれる独自のスタイルを確立した福田さんの創作は、ポスターだけにとどまらず、絵本や玩具、立体作品など様々な領域の垣根を越えて発揮されてきました。福田さんの第二の故郷ともいえる町、二戸市の二戸市シビックセンター内にある福田繁雄デザイン館では、その立体作品をまとめて見ることができますし、市内のあちらこちらには、福田さんが手がけたモニュメントが点在しています。例えば母校である県立福岡高等学校には、扉を模したモニュメント《新しい世界へ》(2003年設置)が設置されており、毎年、同校の卒業生がその「扉」をくぐるのが伝統になっているそうです。
 少し話は逸れますが、この年始に、筆者が休暇を利用して北九州市を旅行したとき、思いがけず、福田さんの作品に出合いました。それは同市役所の近くを流れる紫川にかかる、通称「太陽の橋」(中の橋)に設置された《宇宙七曜星の精》という不思議なオブジェで、地元の方からは「マカロニ星人」という愛称で親しまれているとのこと。作品の存在や、その原理は本などで知っていたものの、実際に現地で目にして、改めて福田さんの仕掛けるトリックの世界に感嘆の声をあげてしまいました。
 みなさんは美術館で、様々な作品や作家に出合うと思います。作品を見た記憶が、何気なく通り過ぎた場所や、偶然出合ったモノからよみがえり、改めてその作家や作品の世界を知って関心を持ったり、何かモヤモヤしていたことが腑に落ちたり、あるいは新たな感動を呼ぶこともあるでしょう。ひとつの作品から、新しい世界が広がる。美術館での体験が、みなさんにとって、新しい世界への扉になれば、これ以上嬉しいことはありません。
《ローマ字の宇宙》2001年
二戸市シビックセンターの中庭に設置された、市ゆかりの物理学者、田中舘愛橘博士考案のローマ字が描きこまれた高さ8mの柱10本。館の2階から見下ろすと、博士の肖像が浮かび上がる仕組みです。
《宇宙七曜星の精》1992年
春分の日と秋分の日に、マカロニ(頭部)に空いた穴から太陽光が差し込むと、北九州市の花であるひまわりを持った人物の影が現れるといいます。
 
 
(いずれも筆者撮影)

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12/29~1/2)