松本竣介「黒い花」
作品詳細データ
1940(昭和15)年
油彩・板
86.4×60.2cm
油彩・板
86.4×60.2cm
この頃竣介の描いた風景には女性像がよく登場する。ここでもスカートにハイヒール、帽子をかぶりお洒落にきめたモダンガールが大きく描かれ、彼女の脇にはサインからひょろりと伸びた背の高い黒い花が風に揺られている。人物や建物が複雑に交錯した黒い線描と、白や赤や青が何層にも重ねられた透明感のある複雑なマチエールが、幻想的な都会のイメージを作り上げている。
「麦の香りをさせる健康的な田園の少女も、化粧品でかため上げた都会の女も、同じ女だ。瞳を化粧する事は出来ない。」
岩手で育ち、東京で生活した竣介は、田園の風景も都会の風景も同じによう愛した。それは、彼にとって、自然とは探すものでなく、いつでも心の中にもっているものであったからだ。ここで都会のただなかに立つ少女にひっそりと添えた黒い花は、彼が持ち続けたひとかけらの自然だったのかもしれない。