岩手県立美術館

vol.10 中高生の皆さんへ 〜美術館へ行こう〜

 主任専門学芸調査員 杉本 聡
2011.3

松本竣介・舟越保武展示室と展示風景 松本竣介 《Y市の橋》 1942年

 今年度、当館に赴任してきた。これまでとは、まったく違った環境での仕事に戸惑いながらの毎日であった。小中高生の団体が来館の時は、その対応で、生徒の皆さんの素直な感動や驚きに、とても充実感を覚えた。

 美術を専攻している自分にとって、美術館勤務での最大の喜びは、画集などではなく本物と向き合う仕事であることだ。かつて、画集で見ていた作品を実際に目の前で見ている。ぜんぜん違う。もっと違うのは、いったん本物を見た作品を、あらためて画集で見たときである。もうそこには、感動は起こらない。それでも、いろんな展覧会に行ったときは、その感動を記憶させようと、作品の絵葉書などをよく買う。

 話はいきなり変わるが、当館のコレクションの柱は、萬鐵五郎(よろずてつごろう)と舟越保武(ふなこしやすたけ)、そして松本竣介(まつもとしゅんすけ)である。私は特に松本竣介の作品が好きだ。中でも「街シリーズ」とよばれる当時の東京周辺の風景を描いた作品が大好きだ。なんて透明感があり、深い色合いだろう。そして、時が止まっているかのようである。これらの作品を見ていると、遠い記憶の中か夢の中で見たような、どこか懐かしさを感じてしまう(本当は、見たこともないのだが)。そして、そこには静けさと寂しさ、あるいはもの悲しさがある。ひとりでじいっと見ていると、絵の中の世界に自分が引き 込まれていくような錯覚さえ覚える。竣介の絵は、よく時代の空気(日本が戦争へと向かう暗い空気)が反映されているといわれるが、もちろんそのようなこともあると思うが、私は、むしろ描く対象への、竣介の優しいまなざしを感じてしまう。

話を元に戻そう。油絵の場合、本物と印刷物ではどんな点が違うのか考えてみたい。油絵に限らず、それを印刷したものは、紙にインクを乗せて色や形を再現したものである。しかし、実際の油絵では、絵具の色によって、そこに入っている物質がまったく異なるのである。その結果、たとえば、同じ赤でもその物質によって、塗ったときの見え方がまったく違う。また、油絵は何層にも絵具を塗り重ねるので、色の層を透かして見ている状況になる。このような見え方は、印刷では再現が不可能である。その他にも、油絵には、松ヤニのような樹脂も混ざっているので、そのような場合は、光沢のあるガラス質の状態に見える。このようなものは、本物を目の前にして初めて感じられる油絵の魅力である。
中高生の皆さん、本物の感動をぜひ美術館で味わってください。本物との出会いは、きっと人生を豊かにすると信じています。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)