岩手県立美術館

vol.9 ハンス・コパー展

 学芸調査員 三田聡子
2011.2

コパー展の展示プラン(部分)とスペシャル・ギャラリートーク、新春放談での対談の様子

 ハンス・コパー展を担当して、1年半が経過しようとしている。展覧会の初日を無事に迎えられるか、正直、不安な日々だった。しかし、多くの人に支えられて展覧会は幕を開け、会期も終わりに近づいている。

 展覧会、というものを考えた時に、コパーの歴史上の位置づけや当時の時代背景などから展示を考えることと、実際に制作をしてきた コパー自身の目線ということの2点に重点を置くことを決めた。コパーの外側と内側。それを来館者のみなさんに見ていただきたいと思った。離れて見ると、大きく時代の流れがわかり、作品に寄っていくと、コパーが制作していた距離ほどに近づいて見ることができる。展示を考える上では当たり前のことかもしれないが、設備上・展示の制約上できることが限られた中で2つの重点を達成することには苦労を強いられた。

 しかし、コパーの作品がいよいよ岩手に到着し、クレート(※)が開いた瞬間、ああ、これはいい展示になるな、と確信した。作品自体がものすごいパワーを放っていたからだ。今回来た作品は殆どが小ぶりで、岩手の広い空間に負けてしまわないだろうかと心配していた。でもそれは違った。薄作りであるのに力強く、ピンと緊張感が走る。晩年に差し掛かるにつれ、その力は更に強まり、しかも静けさを増していく。他館に幾度も足を運び、作品は何回も見ていたはずなのに…。完璧に圧倒されてしまった。担当者がすっかりコパーにやられてしまったのだが、みなさんはどう感じただろうか。来館していただいた皆様の心にその衝撃が届いていれば、これほど嬉しいことはない。

展覧会のもう一つの柱といえば、関連イベント。初の試みばかりであったが、充実した内容となった。そこにはアドバイザーであり陶 芸家の清水幸子氏の存在が大きくある。研究だけに偏らず多くの人に興味を持ってもらえる関連イベントとは何か。どこのマネでもなく岩手独自の内容とは。清水氏には展覧会開催決定の時期と同じく1年半前から相談に乗っていただき、5月からは「アドバイザー」として美術館と二人三脚をしていただいた。外部の方の意見を取り入れることで、世界が広がっていく。コパーの制作に迫り(コパーの土でつくる)、コパーを思って花を生け(コパーに捧ぐ花)、作家と研究者の両面から講演していただいた(新春放談―と・う・げ・い)。関連イベントを通じてコパーの作品と参加者が、また講師・職員と参加者が、そして参加者同士がつながった。関連イベントを介して出会った方々(講師、参加者含め)との交流はかけがえのないものとなった。
「ハンス・コパー」を中心に、色々な人と意見を交換し、手・足を動かし(バタバタと走り回り?)、脳に汗をかいた。多くの人と関 わることで、一つの展覧会として終わるのではなく、もう一つ先の世界を共有できるかも知れない。2月、コパーの作品は次の会場へと旅立ち、夏には所蔵元へ帰っていく。また、コパー(の作品)に会いに行きたい。そして岩手で「ハンス・コパー展」を開催したことの意義を改めて反芻したいと思う。
※ クレート…作品の輸送・梱包用の箱

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)