岩手県立美術館

vol.7 本を楽しむアートな話

 非常勤専門職員/司書 澤村政子
2010.12

紙町銅版画工房の蔵書票教室の作品と製本ワークショップ参加者の作品

 「蔵書票」というのを知っていますか?文字通り本が自分の所蔵であることを示すための小紙片で、活版印刷の技術が発明されて後、その技術による出版物が広まり始めたのにつれて普及したと考えられています。ラテン語で“何某の蔵書からの一冊”という意味のEXLIBRISという言葉と、図(絵)、所蔵者の名前が一つの画面に入れられたものが多く、銅版画、木版画、石版画など手法も様々なものがあります。著名な作家の作品もあり、小さな美術品として世界中に愛好家がいて交流が図られています。日本でも日本書票協会があり書票展を行っていますし、蔵書票の美術館もあるのです。

 仕事柄、古書を扱うことも多いのですが、さすがに蔵書票のついた古書にめぐり合うことは難しく、今回銅版画作家の岩淵俊彦様ご夫妻から作品をお借りしました。写真では読み取りにくいのですが、大変細やかな美しい書票で見ほれてしまいます。ご夫妻が開いておられる工房では年に一度蔵書票教室を開催し、参加者同士で作品の交換会をなさるのだとか。

こうした手間隙かけた蔵書票を貼り付けるほどの本などもってない・・と思った方もいませんか?そんなときは自分で本を作ってみてはどうでしょう。美術館では11月に造本作家であり版画家である藤井敬子先生を迎え、製本のワークショップを行いました。このワークショップは「誰かに伝えたい」をテーマに物語作品を公募し、入選作品にワークショップ参加者が挿絵を描き製本までして一冊の本に仕上げるというもので、非常に難しい内容だったと思うのですが、出来上がった作品は本当に素晴らしい!絵を描くだけでも大変なのに、司書という仕事柄何となく知っているつもりの私でさえ“初めての人には結構大変”と感じてしまう程の工程。馴染みのない用語に戸惑った方もいると思います。しかし製本という作業と同時に本の構造が理解できるよう、細やかな指導をしてくださった藤井先生と、それをしっかりとこなされた参加者の皆さんに頭が下がります。作品はライブラリーで展示、紹介した後、それぞれの製作者の元へと返されるわけですが、正直このまま美術館で永久保存したいくらいの感動です。
電子書籍が話題になる昨今ですが、本という形態の持つ独自性が失われるものではないと思うのです。もちろん蔵書票も注文すれば手に入り、美術品としてコレクションしても良いわけですが、昔読んで何となく捨てることが出来ないでいる一冊などあったら、自分で装丁しなおしてみてはどうでしょう。そして自分で作った蔵書票を貼り、自分だけの一冊に仕上げる。そんなちょっとした贅沢な時間を楽しんでみることをお勧めします。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)