岩手県立美術館

vol.5 ある日の学芸員

 専門学芸員 盛本直美
2010.9

黒田清輝記念館での展示風景

 8月29日、「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」が閉幕した。会期中、ギャラリートークやワークショップで直接顔を合わせてお話しさせていただいた来館者の方々をはじめ、アンケートにご協力いただいたお客様のご意見をみても、とても満足度が高く、多くの人々に楽しんでいただくことのできた展覧会であったように思う。

 そして今、8月31日10:00。黒田清輝展担当の私が何をしているかというと…。4tトラックの助手席に乗って、東北道を走っている。昨日、30日に作品の撤去作業(展示室の壁からはずし、輸送用に作品を梱包、搬出)を終え、今日は、お借りした作品(重要文化財含む!)を積んだトラックに同乗、東京の黒田記念館まで返却に向かっているのである。車高の高い4tトラックから眺める景色は最高。とはいえ、東京まで8時間、長い旅ははじまったばかり。

岩手にきて3年目、学芸員としてまだまだ新米の私が、この職業を意識したのは、大学3回生のとき。以前から美術が好きで、美術について勉強したり、作品を見たりしていたのだが、就職を考えなくてはいけなくなった時期、自分だけが面白がって美術と向き合っているのではなく、美術を介して多くの人々と出会えるような、また美術作品と人々の出合いの場に立ち会えるような仕事に就きたいと考え、学芸員を志した。
しかし、大学生の頃、憧れていた学芸員の仕事に、8時間のトラック同乗は含まれてなかったなあ…。
こんなことを考えているうちに、18:00。業者さんの東京倉庫に到着。作品を一晩預かっていただき、事故なく本日の業務は終了。
日付が変わって9月1日。今日は黒田記念館への作品返却作業。盛岡から一緒に長い旅をした作品たちを開梱、状態に問題がないかチェックする。展覧会の一連の仕事の中で、一番緊張する瞬間かもしれない。
さて、作品のチェックを無事に終えると、黒田記念館の展示室に作品が展示される。最後に、当館では入口に展示していた、高村光太郎作の黒田清輝のブロンズ像を設置した。顔の向きを調整し、いつもの場所に収まった黒田さんは、心なしかうれしそうである。長期出張、おつかれさまでした、黒田さん。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)