岩手県立美術館

vol.37 展覧会が開幕するまでにすること

専門学芸員 盛本 直美
2013.07

 7月25日(木)から開幕する「いわさきちひろ展」担当の私は、ただいま絶賛展覧会準備中です。ここで、突然ですが、7月12日(金)現在、私のパソコン画面上に貼った「TO DOリスト」をご紹介しましょう。

※展示作業までにすること。
①看板の色校正確認
②章解説パネル、その他解説パネル校了
③出品リスト校了
④造作(カーペット色決定)
⑤造作(バックパネル張込み文字の大きさ、色確認→設置図面つくって送る)
⑥造作(章解説パネルの文字の大きさ、高さ確認)
⑦展示準備(指示・作品並び確認、最終プラン送付、打ち合わせ)
⑧記事下広告校了・CM確認
 なんとなく想像がつく項目も、全然分からない、というものもあると思います。中でも「造作」という言葉。これはなんでしょう。造作とは、展示室内に作品を展示するためにつくる「モノ」のことです。展示台や仮設壁、展示ケース、そして解説パネル、ときには壁の色を変えるバックパネルなど。こういったものを全部ひっくるめて「展示室内造作」と言います。

 例えば、④カーペットの色決定、とあります。これは、ちひろ展会場内に設置する絵本スペースに敷くカーペットの色を決める、ということです。あたたかみのある色で、かつ汚れが目立たず、作品鑑賞を妨げぬようあまり突飛すぎないもの。限られた色の中から、この条件でカーペットの色を選ぶのです。

 そして、解説パネルの文字の大きさと高さ確認。文字の大きさは大きいほどよい気がする。でも高さって・・・?今回の展示は、会場を7つのテーマに分け、ちひろの幅広い活動を追おうとするものです。ですから、章ごとの差異を際立たせるため、各章の扉となる章解説パネルは、天井から床までの長い帯のような仕様にしました。そこで重要になってくるのが、解説文をパネルのどの位置に配置するか、つまり、高さというわけです。文章は、絵とは違い、高くても低くても読みにくいものですし、展示された作品と解説文の高さが著しく違うと、視線があちこちにいってしまい疲れます。こういったいろいろな要素を考えて、解説文の高さを決めていくのです。また、文字の大きさについては、大きいほど見やすくてよいのではないか、と考えがちですが、実はそうではない場合もあります。東京の美術館などで、びっくりするほど大きい文字の解説文を見ることがありますが、これは、大勢のお客様が来館し、作品の周囲を2重、3重にも列をなして鑑賞するという状況を考えて、遠くからでも見えるように配慮したものです。今回のいわさきちひろ展では、作品の素晴らしさをご紹介したいのに加え、「いわさきちひろ」という作家の人生を掘り下げる内容でもあることから、解説は丁寧かつ多めに用意しています。そのため、お客様が「読み疲れ」しないよう、文字はある程度の大きさが必要ですが、一方で、ちひろ作品は比較的小さいものが多く、あまり解説パネルを大きくしては、作品の魅力を減じる原因にもなりかねません。そしてデザイン。ものすごく洒落ていてカッコいいデザインのパネルであっても、文字が読みにくかったり、作品のイメージと違うものであれば、その意味は半減します。ちひろ作品は淡い色彩のものがほとんどなため、そのイメージを損なわないように、パネルのデザインは、あくまでもシンプルに、色も落ち着いたものを採用しています。
 ただ作品を集め展示するだけではなく、展覧会のコンセプトや特にご紹介したいポイントに合わせ、また、まだ見ぬお客様の目を常に意識しながら、いろんなものを準備してゆく作業は大変ですが、楽しいものです。今度、展覧会を見るときには、そんな隠された学芸員の工夫を探してみてはいかがでしょうか。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)