岩手県立美術館

vol.78 (続)図録等について。新参副館長の楽しみ

副館長 小平 浩
2017.3

 当欄の前回内容「図録というもの」の続編としてお届けします。

 私は美術館での職歴が1年に満たない新参スタッフですが、時間を見つけて当館学芸員の皆さんが担当した図録類を手に取って読み、作品や作家自体の解説もさることながら、執筆者それぞれの個性的表現を味わうことに秘かな愉悦を感じております。

 もちろん職務上の理由もそれなりにはあり、さしずめ「趣味と仕事を兼ねた勉強」というところですが、小声で正直にいえば、前者の意味合いがかなり支配的かもしれません。

 加えて、図録は当然ですが、新聞文芸欄や関連雑誌向けに簡略に整理された解説記事や寄稿文、展覧会趣旨の要約文などにも、皆さんが培ってきた知見と元来の資質が渾然一体となって湧き出していることが感じ取られ、興趣の尽きることがないのです。

 

 例えば、

 洗練された言葉遣いで引き締められた内容に、どこか温かみのあるユーモアとリズムが仕込まれていて心地よい解説。

 学芸探求に打ち込む真摯な姿勢を行間にひそませ、日頃の精励ぶりや生き様までが伝わってくるお人柄のにじむ解説。

 鍛錬を重ねた論文執筆力に裏打ちされた正統派学芸評論にして、平明な語り口も超巧みに融合させている骨太な解説。

 シャープで精緻な組立によって微塵の乱れもない美しい文体に、さり気なく軽妙洒脱な風合いを漂わせる上品な解説。

 何かしら哲学的な思考を重ね、瞬間、時空を跨ぐように意識を跳躍させた独特の美意識を提示してみせる瞑想的解説。

 漠々とした題材を取り扱いながら絶妙な要約処理を施し、いつの間にか勘所を押さえたまとめに仕上げる見事な解説。

・・・等々、誰にも邪魔されずに、自分の好き勝手な評価を付して余韻を楽しんでいる、ひとり上手の副館長です。

 

 また、話は転じて10年ほど前、当館友の会会員であるO氏から当美術館の「所蔵作品選」という冊子を頂戴したのですが、美術館に着任した昨年の4月に初めて真面目モードでページを繰るようになりました。収録作品ごとに学芸員の簡潔な解説が付されていて、非常に分かりやすく、かつ馴染みやすいのです。

 萬展示室や松舟展示室にある-あのお馴染みの本ですが、自宅では私の枕元に置いてあり、寝る前にページを開くのが楽しみとなっています。覚えが悪いためか、却って繰り返し読んでも飽きることがなく、某学芸員がこうまとめている、うーむ成程と呟いて眠りにつくのが結構お気に入りです。

 

 時折、これらお楽しみの成果を生かし、友人等に受け売りで浅薄な美術評論などを披露してもいて、この際、美術と付き合うことを生涯の趣味にできればと独りごちているこの頃です。

 

 まとめとして、美術館が作成する図録類や広報資料の役割は、展覧会等の見どころを的確に分かりやすくお伝えすることです。しかし、更に、一般美術ファンとしての勝手を言わせてもらえば、学術的にして平明に、しかも格調高く、結論として―さすが美術館の編集!ウーム脱帽!と唸ってもらえるような出来栄えを常時目指したいところです。学芸員の皆さん、これからもよろしく。

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)