岩手県立美術館

vol.76 映画の中の美術館

主任専門学芸調査員 田村敏之
2017.1

 前回はアート・シネマの舞台裏について書きましたが、今回は映画の中に登場する美術館と、その中で描かれているエピソードを美術館スタッフ視点で切り取ってみたいと思います。美術館を題材にした近年の映画といえば「みんなのアムステルダム国立美術館へ」「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」が印象的でした。この2作品、作風も対照的です。

 

 「アムステルダム国立美術館」はレンブラントやフェルメールをはじめ、ヨーロッパの名作を多数所蔵する世界的な美術館です。それが10年間も閉館されていた内情を描いた作品で、市民団体の反対による設計のやり直し、館長の突然の辞任、資金難に作品落札失敗と、事の顛末をドキュメンタリーでありながらまるでコメディーのように仕上げています。規模の違いはあれ、どの美術館も少なからず抱えている問題はあるものです。映画には美術館改装にワクワクしながら少年のように目を輝かせている学芸員が登場します。彼が惚れこんでいる作品が仁王像で、制作側の日本への敬意も感じられます。2013年、生まれ変わった美術館は満を持して華々しくオープンを迎えるのです。美術館に関わる人間模様が凝縮されていて、おすすめの一本です。

 

 一方「ナショナル・ギャラリー」は作中のBGMも一切排してリアルに美術館の様子を再現しています。まるで静寂な美術館の中にいるかのように鑑賞者の足音が響き、学芸員による見事なギャラリートークにも感銘を受けます。例えば1枚の宗教画。描かれたのは美術館というものが存在していない時代です。本来は美術館に置かれるために描かれたのではなく、薄暗い教会に設置されて蠟燭の揺れる光に照らされていたこと、人々は病気や争いによって「死」を身近に感じながら祈りの対象として絵を見つめていたこと。その当時の絵画の意味について深く、力強く語りかけるのです。その他にも修復技術者の視点や、企画展を創り上げるスタッフのこだわり場面も満載で、映画は3時間ものボリュームがありますが、実に見応えのある作品です。
 残念ながら2作品とも上映権の関係上、アート・シネマで紹介するのは難しいのですが鑑賞後に美術館を訪れてみたくなる、そんな映画です。

 

 当館でも最近は美術館の裏側を案内する「てくてくツアー」が人気で、参加される方も多くなりました。美術館は作品鑑賞を主とする施設ですが、バックヤードにも工夫がたくさんあり、舞台裏としての重要な役割を担っています。映画の題材になることからも人々の美術館に対する関心が多角的に広がっているのかもしれません。そのようなこともあって、舞台裏で運営に関わるスタッフとしての決意を新たにするのでした。

開館時間前の美術館内の風景

今朝も準備を終え、間もなく開館時間を迎えます

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岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から翌年1月2日まで)