岩手県立美術館

vol.55 グランド・ギャラリー展示作業奮闘記

主任専門学芸員 加藤俊明 
2015.1 

美術館のグランド・ギャラリーは、玄関を入ってきた来館者を最初に出迎える、巨大な吹き抜けのホールだ。奥行き100メートル近い湾曲した空間は、この建物のシンボルでもある。明るい外光が差し込み、視界をさえぎるものもないので、展示室の中よりもむしろこの大空間に自分の作品を置いてみたいと希望する現代美術家も少なくない。これまでにも絵画や彫刻をはじめ、インスタレーション、映像作品など、多種多様な作品がこのグランド・ギャラリーに展示され、来館者の目を楽しませてきた。
 しかし作品の形式が多様なだけに、その展示作業も一筋縄ではいかない。2月15日まで開催されている「渡辺豊重展」では、高さ6メートルの立体作品《モクモク》がグランド・ギャラリー突き当りの光壁前に展示された。これは、巨大な袋の形をした作品の中に送風機で空気を送り込み、気球のように起き上がらせる仕組みになっている。起き上がった作品は、バランスが安定せず右に左に大きく揺らぐ。位置がずれたり倒れたりしないように何人かで支えて、展示完了だ。閉館後に送風機のスイッチを切ると、天井すれすれの高さまであった作品の空気が抜けて、たちまちペシャンコになる。朝になったら、また電源を入れて膨らませる。会期中は、その繰り返しだ。
 またこの展覧会では、早池峰神楽をテーマにした絵画シリーズ「時空を超えて」もグランド・ギャラリーに展示された。
 絵画作品の展示はやっかいだ。上から吊り下げなければならないので、スタッフは当然天井まで上がって展示作業をすることになる。床から天井までの高さは、およそ11メートル。狭い螺旋階段を通り、さらに梯子を上って、高窓の窓台にたどり着く。ここに専用の金具を取り付け、作品を吊るワイヤーを張るのだ。窓台の幅は狭く、足を踏み外したら下まで真っ逆さまだ。実際には安全帯をつけているから落ちる心配はないのだが、それでも良い気分はしない。
 作品を吊ったら、スポットライトも取り付けなければならない。天井との距離が近いので、頭をぶつけないようにひたすら腰をかがめて作業する。普段運動不足の身にはきつい作業だ。
 苦労の甲斐あって、大空間とマッチした展示にすることができた。スケールの大きな作品を見栄え良く展示するには、やはりそれに見合ったスケールの空間が必要だ。
 一度展示された作品は、展覧会が終わるまで動かされることはない。会期終了後、休館日を利用して作品は撤去され、グランド・ギャラリーは再び広々とした空間に戻る。それまではこちらも筋肉痛の体をパソコンの前に戻し、しばらくはデスクワーク中心の毎日を続けることになる。

《モクモク》展示風景。バランスが安定するまで、皆で作品を支えます

岩手県立美術館

所在地
〒020-0866
岩手県盛岡市本宮字松幅12-3
電話
019-658-1711
開館時間
9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日、振替休日の場合は開館し、直後の平日に休館)
年末年始(12月29日から1月3日まで)